自分が、高田馬場で“その人”を初めて見かけたのは1年程前だった。
その人は路上に座り込み、組んだ腕に顔を埋め、微動だにしなかった。
その傍らを人達は皆、物をかわすようにして通った。
かく言う自分も、その1人だった。
その人の衣類は朽ち果て、全身は薄汚れて真っ黒だった。
しかし、その人の手を見た瞬間、僕は思わず立ち止まってしまった。
ピカピカに磨かれた“モノ”が、そこにはあった。
他に所有物は何も無いのに、その“モノ”だけはあった。
その人の人生で決して捨てられなかったのであろう、
その“モノ”だけは。
その人は、僕に、強烈なものを残した。
なんだか無性に悲しかったが、でも、あったかくさせてくれるものを。
あの日以来、僕は、高田馬場を通る度、
その人を探してしまった。
もう会えないのかと思った。
しかし、今日、再び。
そして、そのピカピカの“モノ”は、まだその人の指にあった。
自分ごときが、偉そうなことを言える立場じゃないことは解ってる。
でも、今、この国のやりきれない現実の中で、
こういう生き方を選択した(せざるを得なかった)人を、
完全に視野から外してしまって良いとは思わない。
だからって直接何かをしてあげられる訳じゃないから、
偽善と言われても仕方が無い。
この写真を観て、不愉快に思う人はいるだろう。
不謹慎だと言われても仕方が無い。
でもその人は、僕に考えるチャンスを与えれくれた。
大事なことを教えてくれた。
そしてなにより、とても暖かい“モノ”を、くれた。
posted by taku at 02:20| 東京 ☀|
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